1.Virtual世界への扉(世の中は本当に存在するのか?)

孫を連れて長野県大町のエネルギー博物館に行った。いろいろな珍しい科学の実験が出来て楽しかったが、なかでも一番感動させられたのはジェット・コースター・シミレーションであった。電車の運転席とか飛行機の操縦席のシミュレーションは過去に経験があったがジェットコースターのシミュレーションを体験するのは初めてであった。シミュレーションブース内の席に座ってスタートボタンを押すとジェットコースター特有のレールの繋ぎ目で出るゴクン、ゴクンの音とともに座席に音に連動した振動が伝わってきて本物のジェットコースターに乗っているような気分になる。しかも目の前の画面には本物のジェットコースターから見える周りの光景が映し出される。急上昇、急降下では座席が上昇角度、降下角度に合った角度に傾斜する。しかもスピードに合わせて正面から風が顔に当たってくる。シミュレーションが終わるまで正に本物のジェットコースターに乗っている錯覚に陥った。この時はシミュレーションブースに自分で乗り込んだので本物ではないと分かったがもし眠っている間にこの座席に座らされていて目が覚めた時に既にこのシミュレーションが始まっていたなら終わるまで本物のジェットコースターに乗っていると信じ切ってしまうかもしれない。以前にも似たような経験をしたことがある。360度(前後左右)スクリーンで出来ているドーム劇場で3D映画を見たときである。ワシが空に舞い上がって地上を空から眺める映像であったがあまりもの臨場感に身体が反応してしまったことがあった。人間は自分の置かれている環境をいわゆる五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の感覚器官からの情報がシナプスを通じて電流と化学反応によって脳のニュウロンに伝達されることによって認識されることが分かっている。と言うことであればその中間にあるシナプスに実際に発生した電流の変化を記録して置いてそれを後ほどシナプスに入力すれば脳は実態のない虚像を認識することになるが実態を見ているのか虚像を見ているのかは判別する方法がないはずである。実際には現時点の科学技術では実験は未だ出来ないと思われるが思考実験(かのアインシュタイン博士が良く用いられたと言う手法)では可能である。このシナプスに起こる電流の発生は脳科学者(例えば茂木健太郎氏など)はシナプスの発火と表現している。実はこのシナプスの発火は必ずしも末端の感覚器官からの伝達信号によってのみ発生するものではなさそうである。シナプス発火状態の例は夢である。夢は見ていながら「これは夢だなと思いながら見ていることもあるが全く夢と気付かずに体験していることも多い。少なくとも私はいつもきれいな自然色の夢を見ていて目が覚めるまで現実と区別がつかない場合がほとんどである。こうなると現実の世界(実存)が存在しているのかどうか保証はないのである。昔から「夢か現か幻か」と言う言葉があるが厳密に考えた場合どれが正しいか分からないのではなかろうか?

 

私達の心の中の表象が、全て脳のニューロンの発火として生ずる」ということを認めることは、必ずしも「私」の外の客観的世界の存在を否定する「独我論」に結び付くわけではない。私の目の前の机も、外の道路を走る車も、彼方の山も、太陽も、銀河系も、おそらくは客観的な物質としてそんざいする。そのことはおそらく否定できないであろう。ただ、確実なのは、そのような広大な世界も、私の心の中に表象として現れる時には、それは、脳の中のニューロンの活動にささえられた現象にすぎないということなのだ。(茂木のクオリア入門より)

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